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コラム

NHKみんなのうた『Po Po Loouise』
シカゴ国際子ども映像祭で最優秀賞受賞!!

new -2010.01.21更新


 2009年の10月22日から11月1日、アメリカはイリノイ州シカゴにて、第26回シカゴ国際子ども映像祭(26th Chicago International Children's Film Festival)が開催された。
 そしてこのたび、NHK「みんなのうた」にて2008年10月に放送され、アニメージュ本誌(2008年11月号)でもご紹介した『Po Po Loouise(ポポ・ルイーズ)』がノミネート。
 見事テレビアニメーション部門最優秀賞(大人審査員の部)の栄冠に輝いた。
 同映像祭におけるNHK作品の受賞は、実写テレビ番組部門優秀賞(大人審査員の部)における「ふしぎいっぱいアリのくらし(2002)」があるが、「みんなのうた」からの受賞はこれが初めて。
 アニメージュでは、すでに次回作のためにカンヅメ状態という坂井さんに、お話を伺った。

NHKみんなのうた『Po Po Loouise』
(C)NHK/ROBOT
▲『Po Po Loouise』(5分00秒) 演奏とうた:栗コーダーカルテット&UA
 作詞:UA 作曲:関島岳郎 アニメーション:坂井 治

◆ シカゴ国際子ども映像祭とは ◆

 本映像祭は、優れた子ども向け映像の発展を促す目的で、民間非営利(NPO)団体ファセッツ・マルチ・メディア(Facets Multi Media)が1983年に設立したもの。2009年には、世界40カ国以上から1000を越える作品が集まった。
 期間中はシカゴ市内の複数の施設で予選を通過した作品が上映され、映像分野の専門家である制作者、映画関係者、批評家などから厳しい審査を受ける。
 そしてこの映像祭で特徴的なのは、受け手である子どもたち自身による“子ども審査員の部”があることである。
 市内の学校などから招待された審査員の子どもたちは、世界中から集まった作品をじっくりと観賞し、遠慮のない意見を述べることが出来る。
 また彼らは、制作者や映像祭主催者とのディスカッション、ワークショップにも参加して、積極的に意見を交わしたり、自分たちの生活の中で映像が果たす役割についての議論を戦わせたりする。
 コンペティションでは、“子ども審査員”と“大人審査員”の意見を合わせて発表される「ベスト・オブ・アワード」を初めとして、それぞれが6つの部門に対し、最優秀賞や優秀賞などを贈る。

 “子ども審査員”からは「長編実写映画・英語」「長編実写映画・外国語」「短編実写映画」「ドキュメンタリー作品」「短編アニメーション映画」「子どもによる映画」の6部門、
 “大人審査員”からは「長編実写映画」「短編実写映画」「ドキュメンタリー作品」「実写テレビ番組」「短編アニメーション映画」「テレビアニメーション作品」の6部門である。

 なお本映像祭における日本のアニメーション作品の受賞歴としては、故・大谷恒清監督の共和教育映画社作品『鬼の子とゆきうさぎ(1995・短編アニメーション映画優秀賞[子ども審査員の部])』、山村浩二さんの『バベルの本(1996・テレビアニメーション部門最優秀賞[大人審査員の部])』『どっちにする?(1999・同)』、うるまでるびさんの『Mr.カルパッチョ(2006・短編アニメーション映画審査員特別賞[大人審査員の部])』などがある。





(C)NHK/ROBOT

 【PoPoLooiseのはじまり】

 『Po Po Loouise』は、リコーダーユニット・栗コーダーカルテットと、歌手UAさん、そして実力派アニメーター坂井 治さんとのコラボレーションによって誕生した幻想的な作品である。
 作曲は、栗コーダーカルテットの関島岳郎さん。“少年少女時代の思い”をこめたこの特別な曲に、ぜひUAさんの詞と歌を、と熱望したのが始まりだ。
 録音当日まで一度の打ち合わせもなく、本番のときに初めて曲と歌を合わせたという伝説がある。ヘッドホンからUAさんの圧倒的なパワーを内包した歌があふれ始めた瞬間、関島さんは“脳天を直撃するような感動に打たれた”と言う。
 そしてアニメーション担当は、『Time〜時のしおり〜(2002)』『金のまきば(2003)』で「みんなのうた」ファンにはお馴染みの坂井 治さん。繊細さの中に野性を秘める高いクオリティの作風に、一目惚れした人も多いだろう。

 そして本作は、今までのどの坂井作品とも異なる雰囲気を持った、透明感あふれる映像詩。愛の幻影を捜す“僕”が、愛犬PoPoLooiseのぬくもりの中で、自分の過去や未来をさまよう物語である。
 それは、悲しみに満ちているかの様なのに、どこかに希望の火が灯っているかの如く温かい。
 言葉さえもその繋がりの意味を失い、ただ懐かしい感情だけが伝わって来る世界。
 “E Le Vu Sha Ki La Ku Pa Di Ma To Ka Lei”
−−♪エ ラ ヴ シャ キ ラ ク パ ディ マ トゥ カ レイ♪−−
 歌の中で夢のように繰り返される、神秘的なフレーズである。
 ええと、“E”ってイタリア語で「そして」の意味だよね…“Le”と“La”はどうしてどっちも「ラ」って読むんだろう? あれ、ここの冠詞はどれだろう?
 ……などと考えてはいけない。
 これは現在、山奥で自然に包まれて暮らしている作詞のUAさんが、曲を聴いてその透明な感性から生み出した、地球上のどこにもない言葉。リコーダーの素朴な響きに乗って、孤独に傷ついた気持ちを優しく勇気づけ、愛の思い出を呼び戻す星空の言葉なのである。


 ひとつひとつの単語は具体的なのに、全体としてイメージ先行という難しい歌だけに、映像にはそれ以上のインスピレーションが求められたと思われる。坂井さんは最初、どのように作品をとらえたのだろうか?
 初回放送当時、坂井さんはこんな風に話してくれた。

坂井  「歌が物語を説明するでなく、解説もなく、難しかったです。唯一の手がかりは、タイトルにもなっている“PoPo(ポポ)”。作詞・歌担当のUAさんの愛犬なんですね。1枚だけ写真を見せてもらいました」

−−  手作りの大切なアルバムとかですか?
坂井  「いえ、1枚のカラーコピーでした(笑)。
 ちょっとキツネみたいな顔の、真っ黒な犬でしたね。そこからふくらませて、“僕”にあたる少年の設定も出来てきたんです」
−−  確かに歌詞では、舞台の時代も国籍も、“僕”の年齢も解りませんね。黒いと言うだけで、実はPoPoが何者かも解らない。
坂井   「なので最終的には、あんまり犬である事にもこだわらないようにしました」


 こうして坂井さんのイマジネーションにより、小さな丸顔の幼い少年と、大きなキツネ顔の黒犬っぽい生物の、愛らしいコンビが誕生した。
 そして坂井さんの中でPoPoはどんどん犬を越え、少年を異世界に誘う不思議な存在になって行ったのだ。
 奇妙な言葉の連結からにじみ出る感情にシンクロするように、少年を取り巻く世界の映像は、形も色も有るようで無く、無いようで有り、絶えず流れては姿を変える。
 だがそれが不安や絶望を呼ぶものではなく、より確かな未来へのステップであると感じさせる力強さがあるのが、この作品の秀逸な点である。



(C)NHK/ROBOT

「授賞式では、笑いを取らなければ、とばかり考えていました」

 それでは、今回の受賞について、坂井さんに伺ってみよう。

−−  まずは、この度はおめでとうございます!
  受賞が知らされたとき、どんな事を思われましたか。

坂井  「最初にまず(日本にいる時に)、受賞できるかも知れない、と言うニュアンスの連絡を戴いたんです。その時は素直に嬉しかったです」

−−  シカゴでの授賞式には出席されたのですか。
坂井  「連絡を戴いたので行くことにしたのですが、英語苦手ですし、なかなか腰が上がらなくて。
 だから、式で受賞を“知らされた”瞬間と言うのも、正直まず思ったのは残念ながら驚きや喜びよりも、コミュニケーションの不安でした。
 アメリカだけではないと思いますが、外国の授賞式って、みんな笑いを取るんですよ。そういう状況が個人的にとても苦手で、どうしたらいいかと。
 でもそんな心境を壇上で正直に話したら、(みんな)笑ってくれました。もちろん通訳さん鋏んでですが」
−−  舞台の上では、どんなスピーチを?
坂井  「素直に感謝と喜びの言葉を伝えました。記憶する限りでは、
 “私は日本で育ってきて、日本の子どもたちのために、この作品を作りました。
 その作品がこうして、いろいろな国の人たちにも喜んでもらい賞まで頂けたことを、ありがたく思うと同時に、不思議でもあります”というようなニュアンスのコメントをしました。
 これが、作品と受賞について感じた一番のことでしょうか」
−−  「言語を越えた作品として評価された」と伺っております。
 作品制作にあたって、坂井さんが意識して言語を越えようとした部分はありますか。

坂井  「ありません。言語を越えるというより、言語を膨らませたつもりです。
 意識としては、歌をできるだけ豊かに聴かせるために自分ができる事を考えていますね」
−−  ♪E Le Vu Sha……♪ の部分の意味について、質問はありませんでしたか。
坂井  「向こうでは説明が難しいので“PoPoに会うためのおまじない”と伝えました」


 「世界は広く、温かく、大きい」

−−  坂井さんにとって、シカゴ国際子ども映像祭とはどのような位置にあるものでしたか。
坂井  「こうした機会を戴くまで、実はあまり詳しく知りませんでした」
−−  ご出品は……。
坂井  「出品もNHKさんの方からして戴いてました。
 映像作家として、映画祭への参加は大切な事だとは思うのですが、どうしても億劫な性格がたたってまして。
 でも今回、直接シカゴまで足を運んだことで、知ったことが沢山ありました」
−−  と言うと。
坂井  「実はこの映像祭は実際行ってみると、思ったより大規模な印象を受けないんです。正直、最初はひょうし抜けしたほどでした。
 商売気が、ほとんどないのです。
 要するに、『大人の創作の領域を広げるために』とか『仕事のために』ということが、全くと言ってもいいほど無いんですね」
−−  なるほど。日本の大きな映画関係の催しでは、なかなか考えられない感覚ですね。
坂井  「だから(その方面の)盛り上がりには欠ける印象だったんですが、でもその理由はすぐ解りました。
 主催者が本当に子どもを第一に考えているんです。
 スタッフも集まる人たちも、心が温かく、大きい、と感じました。とはいえ、そこまで話し込んでいないので、あくまで雰囲気ですね。
 集まった世界中のディレクターやプロデューサー含め、作り手の子どもに対する想いが、『強い』ではなく、『大きい』。
 現実に対して問題提起したり、難しくなる事よりも、子どもに対して、また子どもの将来に対して、とても寛大で、温かくて、ユーモアにあふれている。
 本当に子どもが喜ぶ、子どものためになる映像を見る場というものを作ろうとしている……。
 もっと沢山の子どもたちが参加できるといいですよね。もっと州なり自治体なりが応援するべき貴重なイベントだと思いました」


(C)NHK/ROBOT

 「仕事にしてしまったからには、嫌いにならないように」

−−  では勢いもついたところで、新作のご予定など教えて下さい。
坂井  「今、仕事では2月放送予定の『みんなのうた』を作っている真最中です。
 それから、オリジナル作品を久々に制作しています。受注仕事では、なかなか取り組めないようなテーマで、また今までの作風と違った作品を作ろうと思っています」
−−  それは楽しみです! 『PoPo〜』の手法も斬新でしたが、また違う試みをされるんですね?
坂井  「私は、作品毎に新しい技法を取り入れているんです。
 『PoPo〜』では、ほとんど新しい方法、技術で取り組みました。これは言葉では説明が難しいんですが、道具はそこまで毎回変えられませんから、考え方やプロセスを変えて行くわけです」
−−  それは凄い事だと思いますが。
坂井  「私は飽きっぽいので、毎回違う作り方をしないと、作ること自体が退屈になってしまうんです。
 実は『PoPo〜』はあまり人に進められるような作り方はしてなくて。重要だったのは、“話し合い”と“ノリ”だったと思います」
−−  それも重要なファクターですよね。
  では最後に、読者の皆さんに人生の先輩として、また今を生きる者としてメッセージをお願いします。

坂井  「難しいですね……。
 人は飽きますからね。好きなことを続けるコツは、飽きないように工夫して行くことじゃないかなどと、最近思ったりします。
 好きなことを仕事にすると、飽きるのが更に早くなりますから、好きなことを好きでい続けることは、工夫と努力が必要なんだな……とひとりで納得していたりします。
 だから『好きなことは仕事にしない方がいい』って言葉は、とても的を得ていると。
 でも仕事にしてしまったからには、嫌いにならないように。
 だから、無理はしない方がいいです。
 好きこそ物の上手なれ。おっしゃる通り。でも継続こそが力です。そう思います」
−−  坂井さん、お忙しいところ、ありがとうございました!


 自らを「飽きっぽい」と評す坂井さん。だがそれは、常に自分の中に新しい可能性を見いだす姿勢を科した、クリエイターの姿でもあるだろう。
 坂井さんは、『PoPo〜』の♪E Le Vu Sha …♪のフレーズを“郷愁を表す音”“記憶をたどる音”ととらえた。この言葉に対して「記憶の色彩と形」というイメージをぶつけたと語る。同じく、記憶をたどる色彩と形で表現したのである。
 ちなみに、坂井さんが「これが『PoPo Loouise』の素材です」と言って見せてくれる箱に入っているのは、色とりどりの切り紙のパーツの山であると言う。
 これからも作り続けられる坂井作品。
 次々と現れ来る課題やテーマに、坂井さんはどのようなアプローチを続け、どのように答えを見つけていくのか。
 何年かしてふと振り返ったとき、そこには光を通して何が見えて来るだろう。
 ひとつひとつ積み上げられて行く作品の軌跡を、見守っていきたい。
 

 なお『Po Po Loouise(ポポ・ルイーズ)』は、1月22日(金)朝9時55分よりNHK総合で放送予定。未見の人は、チェックのチャンスだ。


◆みんなのうた公式サイト=http://www.nhk.or.jp/minna/
◆株式会社ロボット公式サイト= http://www.robot.co.jp/
◆坂井治ブログ=http://sakaiosamu.robolog.jp/


 ■ 坂井 治プロフィール ■

 1977年生まれ。
 多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業後、株式会社ガレージフィルムを経て2002年、
株式会社ロボット アニメーションスタジオCAGE入社。
 代表作は『金のまきば』(2003年)、『Waltzing Matilda』(2006年)、『PoPo Looise』(2008年)。
 また、2月6日(土)公開の映画「食堂かたつむり」では、アニメーションパートを担当している。


道原しょう子

■ ライター紹介 ■
 道原しょう子
 ライター&イラストレーター。「アニメージュ」では、NHK「みんなのうた」紹介コラムを20年以上担当。趣味は、読書・折り紙・回文・アートエッグ。世界のアニメーションにおけるマザーグースの歴史を研究中。所属する『リスト制作委員会』では、もっぱらデータ原口の足ひっぱり役。


コラム

■ ♪「みんなのうた」コラム出張版♪
 ノッポさんのちいさな音楽劇「ありがとう!グラスホッパー」  

-2009.11.11更新


 NHK「みんなのうた」では現在、日本中の話題をさらった“グラスホッパーシリーズ”の最新第3弾が大人気放送中。更にこの秋、グラスホッパーはテレビを飛び出し、新たな物語でついに音楽劇になりました。
 グラスホッパーおじいさんと 仲間たちが贈る 感動のステージ!! たくさんの人たちに見て欲しい……そこにあふれる、“グラスホッパーおじいさん”やスタッフの皆さんの熱い思いとは……!?
 本サイトでは新作オンエア&舞台化を記念して、スペシャルコラム♪「みんなのうた」コラム出張版♪ を特別掲載。

 世代を越えた真実の問いかけに、君は応えることができるか!

“♪「みんなのうた」コラム出張版♪



(C)NHK/NEP-TGH
 【グラスホッパー3部作と歩み】

 2009年10月〜11月の「みんなのうた」新曲として『グラスホッパーからの手紙 忘れないで』が登場している。
 テーマは、純粋でまっさらな心を持った虫たちからの、人間への心をこめたラブレター。

 思い出して…忘れないで…。人間ひとりひとりの記憶の深淵への、優しいノック。
 警告、抗議、といったものではない。ともに地上に生きるものからの、友情のようなもの。垣根のない語りかけだ。
 本作は、いわゆる“グラスホッパーシリーズ”としては、第3弾。
 これまで外の世界として描かれてきた人間界だが、ある事情から、初めて虫たちから 人間たちへ、直接気持ちを伝える試みがなされる。
 番組としては、初の実写本格ミュージカル仕立てとなっており、出演者も多い。あでやかに目を引く楽しい作品だ。
 だが、今回の“グラスホッパー”の話題は、ここでは終わらない。

 思えば、「みんなのうた」に、『グラスホッパー物語』が登場したのは、2005年12月のこと。
 小さな公園を舞台に、バッタのおじいさんが若き日の冒険談を語るというストーリーだった。
 ベースは何と実話。作曲家・松本俊明さんが、本当にロンドンで目撃したという小さなバッタ救出劇が原案という。
 広い世界を夢見て住み慣れた公園から飛び出したものの、街の喧噪に押され、ついには地下鉄に迷い込んだ若い頃のおじいさん。もう帰れないとあきらめたそのとき……。
 それは決して自慢話ではなく、若者への説教でもなく、挑戦してみる事の勇気、触れ合う事の大切さ、後世に伝えていく事の意味を歌っていた。

 そして、美しくアンニュイなワルツ、異国情緒あふれる香り高い映像のなか、切り株の上でタップを踏んでいたのは……
 驚いた人も多かったろう。
 “ノッポさん”こと、高見のっぽさんだったのだ。
 NHKにて、「なにしてあそぼう」には1967年4月から1970年3月まで。
 「できるかな」には1971年4月から、実に1990年3月まで。
 正味20年以上もの間、しゃべらないキャラクターとしてテレビに出演し続けた、あの“ノッポさん”が、躍ってる! しかも歌ってる!
 それは脚本・作詞・振付・主演・歌の5役をこなしたのもさることながら、71歳にして初めてその歌声を披露した、記念すべき歌手デビューの瞬間だったのである。
 インパクトがあり、頼りがいもありそうで、それでいて何とも可愛らしい“グラスホッパーおじいちゃん”は、見た者の心に優しく住みついた。
 やがて季節はめぐり、2007年4月にはシリーズ第2弾・あいさつをテーマとした『ハーイ!グラスホッパー』が登場。
 また同年12月には、「みんなのうたシアター」にて、ノッポさんの創作童話『グラスホッパーおじいちゃんの紙芝居』もオンエア。
 キャラクターは益々の広がりを見せ、その人気は不動のものとなって行く。

 そして今年、待ちに待った第3弾。
 より普遍的なテーマを含みつつ、たくさんの若い仲間たちと歌声を合わせるグラスホッパーおじいちゃんの元気な姿が見られる。
 だが今回はひと味違う。
 「みんなのうた」から誕生したこの歌を、我々は生でも聴けることになったのだ。
 この秋、「グラスホッパー」の世界は、新たな音楽劇として劇場へと飛び立った。
 その名も『〜三世代に贈る未来へのメッセージ〜ノッポさんの小さな音楽劇「ありがとう!グラスホッパー」』。
 
 グラスホッパーおじいちゃん演ずる75歳の高見のっぽさんが、ついにミュージカルの舞台に羽ばたいたのだ。


(C)NHK/NEP-TGH
 【新たなる音楽劇に向けて】

 ここで、“グラスホッパー”の生みの親の1人・株式会社NHKエンタープライズの飯野恵子プロデューサーにお話をうかがおう。

 今回の音楽劇にも企画段階から関わり、共脚本・共演出という形で実現に情熱を注いで来た飯野さん。
「とにかく、たくさんの人たちに観て欲しいです。
 1から10まで手作り。小さくて上質で、お客様とふれあえる舞台。それが、高見(のっぽ)さんの生涯の夢だったんですよ」と語る。

 飯野さんと高見のっぽさんとの出会いは1995年頃。
 すでに「できるかな」は終了していたが、もともと高見さんのタップと声に惚れ込んでいた飯野さんは、いつかミュージカルを実現させたいとの思いから、知り合いに紹介してもらったと言う。
 その頃、高見さんは既に俳優として様々な舞台をこなしていたが、いずれも音楽劇とは異なるタイプのもの。飯野さんの思いも日の目を見ないまま10年が過ぎた。

 運命の2005年、「みんなのうた」のスタッフとなっていた飯野さんは、松本俊明さんのロンドンでのエピソードにインスピレーションを得、「これ、高見さんで行こう!」とミュージカル案を決行。原案・作曲に松本俊明さん、音楽構成・編曲に宮川彬良さんという豪華な布陣で、高見さんが脚本から主演までこなす「グラスホッパー物語」が立ち上がったのだ。  

 この時の映像は、実写とアニメーションの見事な合成。クレイアニメの魔術師・伊藤有壱さんと、伊藤さん率いるI.TOON、NHK制作・技術チームがタッグを組み、クオリティの限界に挑んだ。
 作品は高い評価を得たが、上質な作品を目指したゆえの、生みの苦労も相当なものだったであろうと推測する。

 その後アニメーション度は薄まったとは言え、第2弾も制作され好評。
「自分たちは5分間の最高のミュージカルを、と思って作っていたので、2本も完成できて、そこでひとまず満足していたんですね。でも作品を観た人たちから、だんだん舞台化を望む声が寄せられ始めたんです」と飯野さん。
 再放送が繰り返される事で、当然新しいファンも増え続けて行く。
 とは言え、条件はなかなか揃うものではない。更に月日は無情に流れた。

 そして2009年。飯野さんも舞台でのミュージカルは諦めかけており、高見さんも75歳を迎えようとしていた。
 その矢先。
 飯野さんにひとつの相談がもちかけられた。
「NHKのコンテンツを使ってイベントを主催する、というセクションの友人からでした。
『ノッポさんのイベントをやりたいんだけど、何をしたら良いだろうか』って。
 いろいろ案を出し合ったんです。ああでもないこうでもないと。
 で、結局、『ミュージカルが一番しっくり来るね! ミュージカルやろう!』と(笑)。そうしたら、社内でも賛成してくれる人が大勢いて。
『今の世の中の為に、こういうものをやりたかったんです』と、心意気で協力してくださるかたがたも、たくさん現れてくれました」


(C)NHK/NEP-TGH

 【グラスホッパーの奇跡】

 音楽劇が実現に向けて動き出した時から、高見さんは体力づくりのトレーニングに入り、作品の準備も本格的に始まった。
 一度、エンジンのかかった高見さんの活性化ぶりは、目を見張るようだったと言う。
 長身の体は日ごとにスタミナを増し、タップの音色も軽やかさとエスプリが増してくる。

 この音楽劇の脚本も、ベースはすべて高見さんによるものだ。
 飯野さんをして「一筆書き」と称されるほど、それは一気に骨太に書き下ろされた。

 脚本の共著として、情緒的な演出やキャラクター関係の裏打ちなどを一任された飯野さんは、その隙の無さに舌を巻いたという。
「勉強になりましたね。高見さんはしんみりするのが苦手で、ひたすら楽しく賑やかな脚本を書かれているんですが、すでにきっちり完成されているんです。
 高見さんの書いた1本の筋を、切って飾って繋ごうとすると、必ず前後が破綻してしまう。だから心掛けたのは、切らずにふくらませること。

 それでも、不用意な足し算はできませんでした。完璧な材料の料理の中に、間違った分量の調味料を入れると、味が壊れてしまうじゃないですか? あんな感じでしたね」
 ちなみに、子ども虫のひとりテンコの持つペンダントの設定や、キャラクターたちがチラッと覗かせる性格とは真反対の顔などの演出の妙は、飯野さんによるもの。苦労の甲斐あって、骨子に矛盾なく、デリケートな厚みが表現されたようだ。繊細な味付けである。

 また、イギリスの公園から始まったこのシリーズ、もちろんミュージカル版でも飯野さんの密かなこだわりがある。まず音。
「一応、基本はイギリスです。そこは厳密にやりました。鳥の声から雑踏の音まで、イギリスで録音した音を使う。と言うか、イギリスに無い音は使わないと」
 と言って、ビジュアル的には、全然日本には見えない、と言うことはないようだ。世界のどこかの国の小さな公園という感じであるらしい。
 翻訳小説から飛び出した古風な英国紳士のような、おじいちゃんの独特の口調も健在。

「新曲も18曲あるし、衣装は全て舞台のために新調してあります。より軽く、よりきらびやかに。キャストのかたたちも、実力のある人たちを揃えています。
 そして何より、『みんなのうた』で知っている歌が流れるので、お客さんが一緒に歌ってくれるんですよ。
 そうそう、第1弾の時とはメーキャップも変えてあります。子ども達が近くで見て怖がらないように、高見さんのお化粧、薄くしてあるんですよ(笑)」

 そう、高見さんと飯野さんが挑んだ今回のミュージカルの最も高いハードル。
それは「0歳からのお客様を受け入れたい」というものだった。
 およそ一般的なセリフによる劇の場合、これは困難である。だが、高見さんたちはある信念をもって、あえてこの困難に立ち向かっている。
「高見さんは小さいお子さんがたが何を見て喜ぶか、良く知っているんです」と飯野さん。随所に、そのためのびっくりするような楽しい仕掛けも用意されている。

 高見さんは、人を「おとな」「こども」と言う呼び方をしない。
「おおきい人」「ちいさい人」と言う。
 年齢が少ないこと、背丈が少ないことなどでは、人は判断できないと言う。それは情況で変化していくもの。年齢が少ない人の方が、ずっと賢く鋭いこともある。もちろんその逆のこともある。
 若いうちは1人で生きていけると思っていても、歳をとると、皆で生きて行きたくなったりする。
 おおきい人とちいさい人がもっとコミュニケーションを持って、話し合ったり伝え合ったり、優しくし合ったりできれば良い。
 この音楽劇には、高見さんのそんな思いが強く現れているのだ。
「教え込もうとしたり、上から諭したりするのではなく、一緒に笑って泣いて、何かに気付いてもらう舞台です」
 と飯野さんは語る。
「今は、人の良いところだけを見るのが難しい時代。人を疑わなくては自分や大切な人を守れないという負の連鎖が、人と人との距離を遠ざけてしまっているのかもしれない。
 そんな時代だからこそ、語りかけるんです。あなたの心がやさしい気持ちで溢れていたころ、こんな素敵なものがあったよ。あなたも見た事があるでしょ? そうでしょう? 忘れてないよね? って」

 ノッポさんとして、グラスホッパーおじいちゃんとして、長く活躍してきた高見さんの存在なくしては実現でき得なかった今回の舞台。
 「今を一緒に生きている感覚」があふれ出す、世代を越えたミュージカル。
 そこには、環境問題や自然保護と言ったぎょうぎょうしい切り口だけでは語り尽くせない、広く普遍的なものがある。
 夢は始まったばかり。
 上演予定は、10月に東京公演が終了。次は今のところ1月の名古屋、3月の松山が決定している。

ノッポさんのちいさな音楽劇「ありがとう!グラスホッパー
(C)NEP-TGH


■ 〜三世代に贈る 未来へのメッセージ〜 ノッポさんのちいさな音楽劇「ありがとう!グラスホッパー」

 あのグラスホッパーおじいさんと 仲間たちが贈る 感動のステージ!!!
 日本中で話題をさらったあの歌が、新たな物語で、ついにミュージカルになりました。

 [イベント名]ノッポさんのちいさな音楽劇「ありがとう!グラスホッパー」
 [出演]高見のっぽ、古家貴代美、池田有希子、米原幸佑(RUN&GUN)、内藤大希 ほか
 [開催日程]2010年1月7日(木)〜8日(金)※両日とも昼・夜2回 公演時間:約1時間30分
 [開催場所]名古屋青少年文化センター(愛知県名古屋市中区栄3−18−1)
 [料金]S席:大人3,000円、こども(3歳〜12歳)2,000円、A席:大人2,800円、子供1,800円。
 ※3歳未満はひざ上鑑賞に限り無料
 [お問い合わせ]【TEL】050(5777)8600 03(5777)8600
 [内容]「NHKみんなのうた」で放映された「グラスホッパー物語」のミュージカル化。

〜 ストーリー 〜
その昔、虫と人間の世界でスーパースターになった一匹のおじいさんバッタ。飛び立っていった孫虫たちを思い、街角の公園で寂しい毎日を送っていた。
そこへマゴ志望の3匹の子虫がやってきて・・・。


◆みんなのうた公式サイト=http://www.nhk.or.jp/minna/
◆ノッポさんのちいさな音楽劇「ありがとう!グラスホッパー」公式サイト= http://www.grasshopper-musical.com/


道原しょう子

■ ライター紹介 ■
 道原しょう子
 ライター&イラストレーター。「アニメージュ」では、NHK「みんなのうた」紹介コラムを20年以上担当。趣味は、読書・折り紙・回文・アートエッグ。世界のアニメーションにおけるマザーグースの歴史を研究中。所属する『リスト制作委員会』では、もっぱらデータ原口の足ひっぱり役。



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